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アジア・アフリカ地域研究情報マガジン 第268号

■■■ October 2025 第268号 ■■■■■■■■■■■■
アジア・アフリカ地域研究情報マガジン
ASAFAS INFOrmation Magazine
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/
■■■■■■■■■■■■【発行部数 1,140】■■■■■■

__今月号の目次 Contents_______________
□フィールド便り……………… 棚が静かに語ること
□ メルマガ写真館……………… 地面に近い空間で家事労働をする
□ お知らせ………………… アフリカ地域研究専攻オープンキャンパス、地域研究会
□ 最近の出来事………………… Facebook・Twitter情報
□ 編集子より
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■フィールド便り Letter from the Field
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「棚が静かに語ること」
木村 香純 (アフリカ地域研究専攻)  

 ここは、ケニア聖公会の教会の片隅に設けられた、ごく小さな「書店」です。といっても、立派な建物があるわけではなく、駐車場の一角に置かれた簡素な屋台にすぎません。棚の上段には、英語、そしてスワヒリ語の聖書がぎっしりと積まれています。店主が手を差しのべる一番下の段に目を凝らすと、キクユ語やルオ語など、諸「民族」の言葉に翻訳された聖書が、光沢を抑えた表紙を並べ、静かに読者を待っています。ほんの上下の違いにすぎないはずの配置が、聖書翻訳の歴史を踏まえると、不思議な重みを帯びて見えてきます。

 ケニアにおける聖書翻訳の歩みは、1844年に沿岸部で始まった試みまでさかのぼります。ケニア聖公会をはじめとするプロテスタント諸派は、「人びとの母語で聖書を」という理想を活動の中心に据えてきました。しかし、その理想は現実としばしば衝突します。学校教育や公文書では英語が、家庭や市場ではスワヒリ語が支配的です。民族語の聖書は地方では手に取られるものの、ナイロビでは礼拝でもあまり用いられず、「書店」の棚で砂埃をかぶるばかりです。

 私はこの棚の前に立ち、その光景が示す現実に見入ってしまいました。ほんの数段の棚が、ケニア社会における言語の力関係を如実に映し出しているように思えたのです。英語・スワヒリ語の聖書が上段を占め、民族語の聖書が下段に積まれる――そこには、信仰と日常の言葉のあいだに横たわる複雑な関係が凝縮されています。小さな「書店」の棚は、ケニアにおける言語と信仰、そして翻訳の歴史の一端を、静かに語りかけてくるのです。

写真1:ケニア・ナイロビ、オールセインツ大聖堂内の「書店」の店内

(上記フィールド便りに関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid02Q7f
Gp8h7DeQTo7KC7DtVaPpH8iWvupTrkLjcftz3xEFXzHCZMMBoUAmKEEYFqg1Kl

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■ メルマガ写真館 Photo Gallery
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「地面に近い空間で家事労働をする」
元木 春伽(アフリカ地域研究専攻)

 調査地であるエチオピア西南部では、インフォーマントの女性たちが、高さ30cm未満の椅子に座って家事労働に従事する様子(写真1)をしばしば観察しました(ちなみに、日本のオフィスチェアの高さは約40cmです)。彼女たちは、台の上に食材などをのせて作業することは少なく、地面から高さ約30cmの空間で、しゃがむ姿勢(写真2)をとって野菜を切ったり、膝をまげることなく深前屈の姿勢(写真3)で敷地内をほうきで掃いたりしています。調査によれば、この地面に近い空間で、彼女たちは6種類の姿勢を取りながら日々の家事労働をしていることが明らかになりました。

写真1:高さ30cm椅子に座った状態で、上半身を深く前傾させて衣類を洗う。股関節周りの多様な筋肉がうまく連動していて、股関節の可動域が広い。しばしば、上体を起こして桶に水を足す。

写真2:写真の女性は、肩幅くらいの間隔で両脚を揃えて地面にかかとをつけてしゃがみ、右肩と膝をくっつけた姿勢で、玉ねぎを切っている。ふくらはぎの筋肉や足首を曲げる背屈に関わる筋肉がうまく機能していて、この姿勢のまま、玉ねぎ2つを切り続けることができる。

写真3:多くの世帯では、女性が朝と夕方の2回、深く前屈するような姿勢をとって、箒を使って敷地内の中庭を、5分以上かけて掃いていた。使っているほうきの長さは66cmであった。

(上記メルマガ写真館に関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid02b7zbJj
7oY7WfxAN5a1KLkD6WkMvRyxJno9nacugdZi8S2uSq4Z3pqghEnzouxKdZl

(過去のメルマガ写真館は、次のURLからご覧いただけます。)
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/photoessay/

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□ お知らせ
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◆アフリカ地域研究専攻2025年度第3回オープンキャンパス
日時:2025年11月15日(水)14:00-17:00
参加申込URL:https://www.africa.asafas.kyoto-u.ac.jp/oc-africa20251115/
*オンライン会議システムZoomでの開催となります。

◆ 第267回アフリカ研究地域研究会開催
日時: 2025年11月20日(木)15:30-17:30
場所: 京都大学稲盛財団記念館3階 大会議室
演題:日本語のスティーヴ・ビコ: 南アフリカ黒人意識運動と日本の反アパルトヘイト市民運動
講師:上林 朋広(甲南大学文学部 英語英米文学科 講師)
要旨:本報告では、南アフリカの反アパルトヘイト活動家スティーヴ・ビコの思想内容を1960年代・70年代という時代状況に位置付けて紹介した上で、日本語への翻訳(『俺は書きたいことを書く』現代企画室、1988年[原著1978年])とその受容、そしてビコの生涯を題材とする映画『遠い夜明け(Cry Freedom)』の日本公開後の反応を検討する。以上の分析を通して本報告は、黒人意識運動が日本の反アパルトヘイト活動家に与えた影響の大きさを明らかにする。
申込:オンラインでの受講は要事前申し込み
連絡先:
Email) caasas@jambo.africa.kyoto-u.ac.jp
電話)075-753-7803
Web site) http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/
備考:共催:京都大学アフリカ地域研究資料センター/日本アフリカ学会関西支部

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■ 最近の出来事 Recent Topics
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■ 編集子より From the Editor
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 異文化に飛び込むことで、現地の方が当たり前に行っていたことにふとした違和感や面白さを感じることがあります。アンテナを張り巡らせて、自身のその感覚を大切にすることが、書店で見られた本の並べ方や女性たちの多様な姿勢の「発見」に繋がっていくのでは、と今回の記事を読んでいて感じました。(M.S.)                      

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京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)広報委員会
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協力:京都大学 アフリカ地域研究資料センター
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