ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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  第六回 「〈開発〉という体験 スマトラの村の歴史から
東南アジア地域研究専攻 加藤剛(地域進化論講座)
 
 

Contents

1. 〈開発〉というもの

2. コトダラム村

3. 好きやねん

4. 〈真昼の闇〉と20世紀の始まり

5. 「年寄りも若返ったとき」

6. 〈クーポン時代〉のヒーローたち

7. イスラーム知識人の誕生

8. 公のために

9. スカルノのインドネシア

10. スハルト開発体制と村落

11. 消費される開発

12. 宴のあとに

13. 〈地域研究〉ということ

  

3.好きやねん


 
人生において心に残る出会いがそうであるように、わたしとコトダラムとの出会いも偶然の賜である。調査村を決めようと思っていたとき、知り合いの地方大学の学長さんに自分の出身村を紹介された。1984年11月のことだった。研究者といえども、切れば血の出る生身の人間である。フィールドワークで泣きもすれば笑いもする。好き嫌いもある。コトダラム村の人々とは、最初からなにか波長があった。泊めてもらったティノばあさんは忘れられぬ人となった。好きなのである。「好きやねん」が研究のあり方にどのような影響を与えているのか、これはいずれ自分なりに考えてみたい。とにかく、そう決心をしたわけではなかったが、途中数年の空白をのぞいて、毎年コトダラムでなにがしかの時間を過ごす結果となった。最初の出会いから数えて今年で15年目。村では年寄りと雑談をし、聞き取りを中心に村の歴史の再構築を試みている。村で会った最年長者は1890年代末の生まれである。

パシールからコトダラムへと向かうため、くりぬき船に乗って川を渡る。

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