ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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  第六回 「〈開発〉という体験 スマトラの村の歴史から
東南アジア地域研究専攻 加藤剛(地域進化論講座)
 
 

Contents

1. 〈開発〉というもの

2. コトダラム村

3. 好きやねん

4. 〈真昼の闇〉と20世紀の始まり

5. 「年寄りも若返ったとき」

6. 〈クーポン時代〉のヒーローたち

7. イスラーム知識人の誕生

8. 公のために

9. スカルノのインドネシア

10. スハルト開発体制と村落

11. 消費される開発

12. 宴のあとに

13. 〈地域研究〉ということ

  

5.「年寄りも若返ったとき」


 
今世紀になって本格化した栽培ゴムの特大価格ブームは、合成ゴムの生まれる前、つまり第二次世界大戦以前に数回存在した。このうちスマトラといわず東南アジアの小農ゴム栽培者にとって重要なブームは、1920年代後半と30年代後半に起こっている。30年代のそれは、村人のあいだで〈クーポン時代〉の名で知られる。この時代、ゴム液だけでなく、価格安定化のためにゴム産出制限手段として一年四回配布されたクーポンも、ゴム商人に売ることができた。ゴム園所有者にとってはまことにおいしい時代だった。上流域からたくさんのミナンカバウ人が商人やゴム採取の労働者として到来し、クワンタンは好況に沸いた。ある村人にいわせれば、〈クーポン時代〉とは「年寄りも若返ったとき」、そんなありえないことも起こりそうな、とてつもない時代だったのである。

ゴム到来後、村には雑貨店が開かれるようになった。村人の経営になるが、安定した経営は難しいようで、商店主の顔はしばしば交替する。

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