ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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  第六回 「〈開発〉という体験 スマトラの村の歴史から
東南アジア地域研究専攻 加藤剛(地域進化論講座)
 
 

Contents

1. 〈開発〉というもの

2. コトダラム村

3. 好きやねん

4. 〈真昼の闇〉と20世紀の始まり

5. 「年寄りも若返ったとき」

6. 〈クーポン時代〉のヒーローたち

7. イスラーム知識人の誕生

8. 公のために

9. スカルノのインドネシア

10. スハルト開発体制と村落

11. 消費される開発

12. 宴のあとに

13. 〈地域研究〉ということ

  

6.〈クーポン時代〉のヒーローたち


 
従来の村の政治は、伝統に基づいて特定家系から選ばれた長老数人の合議制によって営まれていた。1910年代以降、これに変化が起こる。長老のうち、オランダに信頼された特定個人が一人で力を振るうようになったのである。さらに、それまで極端な貧富の差がなかった村人のあいだに、シンガポールからの奢侈品の持ち運び販売の商いや、中国人ボスの差配のもと、村でのゴム買い付けで財をなす者がでてきた。なかには、メッカ巡礼に出かけた者もいる。新しい時代が生みだしたこれらヒーローたちは、トタン、板材、セメントを使って建てられた家に住み、家具としてベッド、応接セット、洋ダンス、鉄製金庫、柱時計などを用いていた。当時の三種の神器はなにかといえば、ミシン、自転車、蓄音機である。1930年代に対岸をとおるバス・ルートが開通すると、近隣の西スマトラ州に物見遊山に出かけることが、経済的に余裕のある村人のあいだで流行となった。

オランダ時代の村一番の金持ちの家にみる応接セット。

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